アフタートークにて
上演後のアフタートークで印象的だった話題を2点、備忘録がわりに。
脚本の変化
この作品の初演は2015年です。私が調べた限りではありますが、役者さんは、おそらく9人のうち3人が初演当時からのキャスト、残りは2020年時からの参加メンバーのようです。演出も、再演を重ねるごとに新しいアイデアを取り入れてきたとのことでした。
脚本もそのひとつです。アフタートークでは、初演時と2020年以降の脚本との違いが話題に挙がっていました。それは対立構造の描き方。72年の復帰当時に見られた人々の対立構造の描き方は、初演時も今も変わっていないけれど、現代における人々のそれは、初演時は今ほど対立的なものではなかったそうです。
時間の経過とともに、「若者」と呼ばれる世代の価値観はどんどん変化していきます。対立構造がより色濃く描かれるようになった現在の脚本は、復帰を知る世代と今の若い世代との認識や価値観のずれがさらに大きくなっているという現実を表しているのだろうと思っています。
入砂島
アフタートークでは、今回の「沖縄・復帰50年現代演劇集 inなはーと」の関連イベントとして、若者を対象に企画された演劇ワークショップの参加者もおひとり登壇していました。
この若い参加者さんは、自分の出身が渡名喜島だと話したあと、渡名喜島の近くには入砂島と呼ばれる無人島があること、そこは島全体が米軍に接収されており、射爆撃場として使用されていること、そのため渡名喜島の人々は騒音被害や漁業の制限、事故に巻き込まれるリスクなどを背負わされており、その代償としてお金が支払われていることなどを話してくださいました。
入砂島は、2001年のNHK朝の連続テレビ小説「ちゅらさん」のオープニングで映し出される島でもあります。「癒しの島 沖縄」のイメージを決定づけた朝ドラ「ちゅらさん」の、まさにそのイメージを象徴するかのような美しい海の孤島が、実は米軍の訓練場であり、一般の人は立ち入りが禁止されているということを私たちはどう考えたらよいのか、と思います。
個人的な希望
沖縄平和学習にかかわるものとして、私はこのお芝居をぜひ県外でもやってもらいたいと強く強く思っています。
というのも、先に挙げたこのお芝居のポイントから明らかなように、このお芝居には、沖縄の文化と歴史、そして政治的な問題を、演劇というエンターテインメントを通して無理なく学ぶという可能性が十二分にあるからです。
観劇の対象者は大学生がベスト。高校生でもいいかもしれません。ただ「大学生対象」をイチ押しする理由は、県外の大学生と、県外の大学に進学したうちなーんちゅの大学生が一緒にこのお芝居を観たあとで、感想や意見を交換する交流の場を設けるところまでをひとつのイベントとして提案したいと考えているからです。
県内出身の大学生でも、占領下や復帰直後の沖縄の暮らしを詳しく知っている人はそう多くありません。ですから県内出身者にとっても、自分たちの少し上の世代の暮らしを知るうえで、このお芝居は興味深いものになるでしょう。また自分たちの世代の気持ちを代弁している、と感じる学生もいるかもしれません。その彼らにとっては日常の光景となっている「フェンスのある暮らし」の実情を、県外出身の大学生は知ることができます。そのうえで両者が意見交換をすることで、互いにどんな気づきが得られるのか。きっと大切なことばが交わされるだろうという期待しかありません。
そもそも「復帰とはなんだったのか」という問いは、うちなーんちゅだけが考えればいいものでも、ないちゃー(やまとんちゅ=日本人)だけが考えればいいものでもないはずです。両者が共にかかわることで、膠着したさまざまな課題に風穴をあけるきっかけが創られていくのではないかと思っています。
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