【書籍】上里隆史(2016)『マンガ 沖縄・琉球の歴史』

書誌情報

上里 隆史 
マンガ 沖縄・琉球の歴史
河出書房新書,2016年

マンガと侮るなかれ。
琉球史の精緻な研究成果に裏打ちされた入門書です。
琉球王朝が栄えた古琉球~近世琉球の歴史をざっくりつかみたい方に、特にお勧め。

本書の概要

内容について

本書は、琉球史歴史研究家の著者が、Webで公開していたコンテンツを一冊の本にまとめたものです。
5つの時代区分(貝塚時代・古琉球・近世琉球・近代沖縄・戦後沖縄)に分け、通史をふりかえる「沖縄の歴史編」と、その当時の人々の服装や食生活、文化など、通史をとりまくエピソードネタ満載の「ゆるゆる琉球史編」の二部構成です。

著者の上里隆史氏は1976年生まれ。
琉球大学法文学部(琉球史専攻)卒業。早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。
NHKドラマ「テンペスト」(原作:池上永一)の時代考証をはじめ、沖縄の歴史にかんするテレビ・ラジオ番組でも活躍。著書も『目からウロコの琉球・沖縄史』『琉球という国があった』など、多数あります。

本書のポイント

琉球王国の歴史がざっくりつかめる

一応、通史を扱っていますが、管理人が特にお勧めしたいのは、古琉球から近世琉球にかけての、いわゆる琉球王国の誕生から終焉までを扱った部分です。沖縄県外者にとっては馴染みの薄い琉球王国の歴史が、コンパクトにまとめられています。

著者は、首里城復元事業を主導したことでも知られる高良倉吉氏(現琉球大学名誉教授)に師事していたとのこと。琉球王朝時代の歴史に強いのもうなづけます。

琉球・沖縄史全般をとりあげたまっとうな歴史書で、一般読者を対象に書かれたものは、それほど多くありません。よく知られたものとしては、副読本としても使用されてきた『高等学校 琉球・沖縄の歴史と文化』や『教養講座 琉球・沖縄史』(著者はいずれも新城俊昭氏)がありますが、こちらもどちらかといえば教科書的(副読本仕様ですので当然ですが)で、初学者には少々とっつきにくく、内容的にもややマニアック。

しかし本書は、それよりもずっと少ないページ数で琉球史の大枠がつかめる構成になっています。その理由は、おそらく時代の転換点となったできごとをしっかりおさえた記述になっているからでしょう。例えば、第一尚氏王朝から第二尚氏王朝への移行、朝貢貿易の変遷、薩摩侵攻に至った経緯などが、限られたコマ数で効果的に触れられています。

さらに「ゆるゆる琉球史編」では、琉球王国時代に活躍した人物エピソードや、庶民の暮らしぶりを丁寧に紹介しており、ともすると味気ないものになりがちな文字主体の琉球史に、当時の人々の生き生きとした息遣いを吹き込んでいます。

対して、近代以降の沖縄史の記述は、比較的あっさりとしています。
ただし近代沖縄や沖縄戦、戦後沖縄の歴史については、一般書から専門書レベルまで多くの著作物がすでに世に出ているので、そちらをあたってもよいかと思います。

親しみやすいイラスト

マンガというよりは、一コマ漫画を集めたようなつくりです。
時代考証を踏まえながらも、どこかユーモラスでゆるさ満載のイラストが多用されています。

当時の人々の服装や道具類を図示したイラストも、とても分かりやすいです。
歴史の流れだけでなく、当時の人々の暮らしが見えるところが、従来の歴史書と一線を画す本書の大きな魅力のひとつです。

「ゆるゆる琉球史編」は、1ページに1エピソードの構成なので、読みやすさはさらにアップ!

首里城や浦添ようどれ、各地のグスク跡など、主に琉球王国時代の史跡めぐりを考えておられる方が、当時の基本的な歴史を把握するのに最適です。さらに専門書へとステップアップするための入口としても◎。

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