舞台『9人の迷える沖縄人~after ’72~』感想

2022年5月14日、安和学治・国吉誠一郎作、当山彰一演出の舞台『9人の迷える沖縄人~after ’72~』(@那覇文化芸術劇場なはーと)を観ました。

これは「沖縄復帰50年 現代演劇集」企画として、沖縄の3つの劇団が、それぞれ「復帰」にまつわるお芝居を上演する、というものでした。

  • 『オキナワ・シンデレラ・ブルース』(劇団ビーチロック)
  • 『72’ ライダー』(劇団O.Z.E)
  • 『9人の迷える沖縄人(うちなーんちゅ)』(劇艶おとな団)

本当はすべて観劇したかったのですが、そのたびに沖縄に行くわけにもいかず…最終的に公演日が5月15日に最も近かったこのお芝居を見に行きました。

実はこのお芝居は、2020年にアトリエ銘苅ベースで上演されたときの映像がDVD化(『9人の迷える沖縄人~50 years since then~』)されており、私はそれをすでに視聴していました。そのため、流れはおおむね把握していましたが、生の舞台でぜひ見てみたいという思いもありました。

あらすじ

1972年、沖縄の本土復帰を目前に、有識者から主婦、戦争を体験した老婆、沖縄へ移住した本土人などがひとつの部屋に集められた。
「でも貴方、日本がもし万が一攻めこまれた場合、戦争はしませんって言っていられると思いますか?」
「本土化するってのはどういうことなんだ!」
「私も胸を張って基地はいらないと言いたいです」
「のんびりすることが美徳なら、基地も受け入れてのんびりやったらどうですか?」
語られるそれぞれの沖縄に対する想い、日本への想い、そして戦争、恒久平和への想い、いろいろな想いが交差して、渦の中に引きずりこまれていく。

『9人の迷える沖縄人』パンフレットより

アメリカの『12人の怒れる男たち』にヒントを得てつくられたこの作品は、その名のとおり、9人の登場人物による劇中劇という体裁をとっています。「『それぞれの立場から、沖縄の復帰について意見を述べるお芝居』を描いたお芝居」ということになるでしょうか。

  1. 有識者
  2. 独立論者
  3. 復帰論者
  4. 本土人(本土からの移住者)
  5. 若者
  6. 主婦
  7. 老婆(沖縄戦体験者)
  8. 文化人(沖縄芝居の役者)
  9. 司会(新聞記者)

DVDでも十分に魅力の伝わっていたお芝居でしたが、生の舞台はやはりいいですね。役者さんのセリフがより生々しく身体に響きます。さらに舞台装置や小物の使い方などの演出の妙もダイレクトに味わえました。

お芝居のポイント(私見)

以下、私がこのお芝居のポイントだと考える点を列挙したいと思います。

うちなーぐち

⑦老婆と⑧文化人の一部のやりとりが、沖縄のことば(うちなーぐち)で展開されます。これが場に緩急をもたらす非常に良いアクセントになっています。

私を含め、うちなーぐちが分からない人は、やりとりの細かい内容までは分かりませんが、話の流れを追う上で重要な語句は日本語で話していたり、⑤若者や⑥主婦など、うちなーぐちがあまりよく分からない若い世代のうちなーんちゅに対して日本語で説明しなおすシーンが、お芝居の流れを止めることなく自然に組み込まれているため、ことばが分からなくてもお芝居の内容はきちんと追うことができる工夫がされています。

沖縄の法的位置づけ

主に、①有識者と③復帰論者によって、沖縄返還、そして返還後の沖縄の法的な位置づけが説明されます。具体的には沖縄返還協定、日米安全保障条約と日米地位協定。

これも、⑤若者や⑥主婦、⑦老婆や⑧文化人など、いわゆる「一般の人々」に対して、専門家がかみくだいて説明する、というシーンがあり、そこで観客も自然に学べるしかけになっています。

復帰前後の沖縄のすがた

このお芝居では、米軍占領時代の沖縄の暮らしぶりや、復帰前後の沖縄のできごとなどが語られるシーンが随所にちりばめられています。特に今回のバージョンでは、「復帰あるある」をテーマにした投稿記事などがスライドで紹介される場面もありました。占領下の沖縄を知らない県外の観客はもちろんのこと、復帰後に生まれたうちなーんちゅにも興味深く観ることができるのではないかと思います。

「本土人」と「若者」の存在

④本土人と⑤若者。この二人のセリフには、公の場やメディアで「沖縄問題」(あえて「 」を付けますが)が取りあげられる場面ではあまり表に出てこないけれども、プライベートな会話やSNS上ではしばしば耳にする、いわば本音レベルの内容が含まれています。

特に、⑤若者のような考え方は、私自身もよく耳にしてきました。生まれたときから「平和な」日本(の一部である沖縄)で生きてきて。生まれたときからすでに米軍基地はあって。基地に反対している人もいるけれど、それで何かが変わったようにも思えない。でもそんな考えを口にすると、年長者から「勉強不足!」と怒られるのが分かっているので、表では言わない…。若い観客は、このお芝居における⑤若者のことばにいろいろ思うところがあるのではないかと思います。

④本土人は難しい役回りです。実際、演出の当山彰一氏が演じておられます。ただ、このお芝居での④本土人は「日本がキライな日本人」である点が興味深いところでもあります。

1 2
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする