【書籍】上間陽子(2020)『海をあげる』

書誌情報

上間 陽子 
海をあげる
筑摩書房,2020年

テクストから声が響いてくるような瑞々しい錯覚に陥ります。

本書の概要

内容について

本書は、2017年に出版された『裸足で逃げる』の著者である上間陽子先生の初のエッセイ本です。

収められたエッセイは12作品。冒頭と最後の2作品は書きおろし、あとは1作品を除いてwebちくまで連載されていたものです。

沖縄で暮らす筆者が出会う凄まじい暴力のありようを、静かな筆致で綴っています。

第7回沖縄書店大賞・沖縄部門大賞Yahoo!ニュース本屋大賞2021・ノンフィクション本大賞受賞作品。

筆者について

琉球大学教育学研究科教授。ご専門は教育社会学、生活指導。
家庭環境や生活環境の厳しい沖縄の若い世代について、調査・研究、および支援を続けておられます。
2021年10月、沖縄にオープンした若年ママの出産・子育ての応援シェルター「おにわ」の共同代表も務めていらっしゃいます。

本書のポイント

美味しいごはん

冒頭のエッセイのタイトルでもある「美味しいごはん」の話が、本書ではたくさん登場します。

  • 粕汁
  • ぶっかけうどん
  • いちごのアイスクリーム
  • ムーチー
  • 塩むすび etc…

「美味しいごはん」で、
なんとか自分を立てなおす。
私が見守り/見守られる他者とのつながりを再認識する。

「食べる」という、一見ありふれた、しかしわれわれ自身の生存を左右する行為に内在する根源的な力に触れる気がします。

そして、その「美味しいごはん」の源でもある「水」が汚染されるとはどういうことなのかも、本書では綴られています。

貧困と暴力

沖縄の子どもの相対的貧困率は29.9%(H26)。
全国平均の13.5%(H30)の2倍以上と、かなり深刻な状況にあります。

・沖縄県の子供の相対的貧困率は29.9%で、全国平均の約2.2倍にのぼる。

・1人当たり県民所得は全国最下位で、母子世帯の割合は全国で最も高い。

・低所得者世帯を対象とする施策を見ると、生活保護率は全国3位、就学援助率は全国2位にとどまる。

 子供の貧困に関する指標(沖縄県の状況) – 内閣府

子どもたちに降りかかる暴力。
女性たちに降りかかる暴力。
沖縄に降りかかる、今も昔も止むことのない暴力。

暴力という抑圧の中で押しつぶされる寸前にあるひとびとの、さまざまな声が綴られています。

本書では、前作の『裸足で逃げる』の最後の章の主人公である女性の、元「彼氏」からの聞き取りも収められています。暴力的な日常を過ごすひとびとのふるまいの、加害-被害の二分法で割り切ることの難しさを痛感します。

海をあげる

本書のタイトルにも含まれる「海」。
沖縄のさまざまな「海」のたたずまいが描かれています。

その「海」を「あげる」とはどういうことなのか?
自分自身に問いかけながら、読み進めたい本です。

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