書誌情報
吉浜 忍・林 博史・吉川 由紀(編)
沖縄戦を知る事典 ― 非体験世代が語り継ぐ
吉川弘文館,2019年
戦後世代がまとめた沖縄戦事典。
項目ごとにまとまっているので、沖縄平和学習の教材研究時の資料としても使いやすいです。
本書の概要
内容について
本書は、沖縄戦を学ぶうえでおさえておきたい用語やできごとの説明を集めた事典です。
47項目のトピックと20のコラムで構成されています。
トピックは1項目につき、おおむね2ページから4ページ、コラムは1ページでまとめられています。
詳細な目次はこちらから確認できます。
執筆者について
戦後世代の28人が担当。
編者の吉浜忍氏と林博史氏は、沖縄戦研究の第一人者であり、ベテランの研究者ですが、そのほか、気鋭の若手研究者から、教育現場の教職員、県内の自治体で市町村史の編纂にかかわっている職員や資料館の学芸員など、所属も世代も多様な執筆陣がそろっています。
本書のポイント
平易な文章×濃密な内容
とても読みやすい文章ですが、内容的には、入門書レベルにとどまらず、専門的な部分までしっかり触れられています。
教員や平和ガイド、説明員として、日ごろから初学者と接している執筆者も多いことも、この「読みやすさ」に関係しているのではないかと思います。
巻末には「読書ガイド」、「博物館・祈念館ガイド」、「歩いて学べる戦跡コース」もついており、教育関係者だけではなく、沖縄戦に関心のある一般の方にもおすすめです。
読み方自由
各項目につき、2~4ページという分量で概要をつかむことができるコンパクトさ。
気になる項目だけを引くという事典本来の使い方はもちろんのこと、一般書のように最初から順番に読んでいくことで、沖縄戦の全体像が把握できるつくりになっています。
非体験者だからこそ
アジア・太平洋戦争において、沖縄戦とはどういう位置づけを持っていたのか。
日本軍・沖縄の一般住民以外の立場から、沖縄戦はどう見えていたのか。
沖縄戦の体験者は、自分が経験したミクロな沖縄戦を語ります。
一方、上述のようなマクロな観点で沖縄戦を捉えることは、一定程度、時間が経たなければ見えてこないという意味で、むしろその後に生まれた非体験者の世代だからこそできる作業でもあるかと思います。
ミクロな沖縄戦の語り、またはマクロな沖縄戦の解説から学べることももちろん多いですが、沖縄戦体験者の語りに丁寧に耳を傾けてきた非体験者である執筆陣ならではの、ミクロな視点とマクロな視点が共存した記述に注目です。
注目したい項目
本書は、沖縄戦の入門書という意味では、きわめてスタンダードな内容で構成されていますが、一方で、他の入門書ではあまり見かけない記述も散見されます。
個人的に注目したいのは次の項目です。
他の沖縄戦入門書では、ほとんど取り上げられない視点です。
- 17 行政と警察(pp.70-73)
- 24 沖縄と移民(pp.97-100)
- 25 米軍にとっての沖縄戦(pp.103-104)
特に、林博史先生が担当された「17 行政と警察」は、沖縄平和学習について考えたい沖縄県外の学校の先生方には、ぜひ一読をお勧めしたい項目です。
個人の人柄と立場性(ポジショナリティ)の問題を、同列に扱うことの課題が見えてきます。
また沖縄県外ではあまり知られていない関連トピックとして、以下のコラムもお勧めです。
- コラム11 沖縄に残された日本軍「慰安婦」
- コラム20 ウルトラマンと金城哲夫
コラム11で登場する裵奉奇(ペ・ポンギ)さんは、1975年、自身が慰安婦であったことを名乗り出ました。1991年に韓国の金学順(キム・ハクスン)さんが名乗り出るよりも16年も前のできごとでした。
告発の覚悟をもって、自らの意志で名乗り出た金学順さんのケースとは異なり、 裵奉奇さんの場合は、1972年の沖縄返還を契機に、無国籍状態にあったがゆえに強制送還されることを恐れた裵奉奇さんが、特別在留資格を得るために、自身が沖縄にいる経緯を話さければならなかった、つまり名乗り出ざるを得なかったという背景があります。
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